三人が鳥居をくぐると、
夕方に近い空はまだ晴れているのに、
雨がぽつりぽつりと降り始めました。
ミキオさんは、眠くてぐずぐず言っているミツル君を背中におんぶしました。
「あれ、天気雨だねえ」とミキオさんは言いました。
神社の縁起の書かれた石版がありました。
二人は今までそんなものも見たことがなかったので、
改めてじっくり読んで見ました。
「これなんて読むのかしらね」とサヤカさんが言いました。
「このはなさくやひめ?」
「お姫さまの神社なんだね」とミキオさんは言いました。
「このはなって桜のことなんだって。
だから桜のマークなのかなあ。
あ、これってあさまじんじゃじゃなくて、
せんげんじんじゃって読むんだ。
へえ、富士山にもあるんだって」
「安産祈願って書いてあるわ。ちょうどよかったね」
とサヤカさんは言いました。
石段を登り、砂利道を歩いていくと、また鳥居があり、
そのそばに御手洗がありました。
木の板にイラスト入りで、水を使う作法が書いてありました。
「えっと、まず左手にかけて…、右手にかけて…、
手のひらに水を移して口をゆすいで…、
逆さまにしてひしゃくを洗うんだって。全然知らなかったよ」
「あなた前なんか、ぐびぐびお水飲んでたわよ」
「いやー、はっはっは。笑ってごまかそう」
「ぼくもしたいよう」とミツル君が言ったので、おんぶからおろしてあげました。
ミツル君はひしゃくでお水をすくってあちこちにぶわっとまきちらしました。
そのたびに太陽の光がキラキラ光って、
小さな虹があちこちに生まれては消えました。
ミキオさんとサヤカさんは「こらー!」と叫びました。
ミキオさんがミツル君をつかまえて、抱っこしようとしましたが、
ミツル君は走って逃げ出しました。
「こら! 待ちなさい」ミキオさんが追いかけます。
ミツル君は、二才の子供とは思えないくらいのスピードで、
ちょこまかと走っていってしまいました。
サヤカさんは、一人で取り残されてしまいました。
何か変でした。お腹や、胸の奥のほうがどきどきしていました。
「なんだろう…?」
サヤカさんは、ぱらぱらと小雨が降る中を、
まるで引き寄せられるように、社に向って歩いていきました。
ひさしの下に賽銭箱が置かれています。
そこに立つと、後ろから声が聞こえました。
「あの」と女の人の声がしました。
サヤカさんが振り返ると、白い着物に赤い袴の巫女さんがいました。
「雨ですから、神殿にお上がりくださいませ」
「あ、いえ。お参りだけですから」
「いいえ。ほら、あちらをご覧なさい」と巫女さんが言いました。
その指さすほうを見ると、煙った山に虹が架かっているのが見えました。
「あなたは神様に呼ばれてきたのですよ。さあ、どうぞお上がりなさい」
サヤカさんは、ミキオさんとミツル君が気掛かりでしたが、
わざわざ一人になるように仕向けられたような気がして、
そのまま一人で神殿に上がっていきました。
そして、ご神体である鏡の前に正座をしました。
サヤカさんの身体がどんどん熱くなってきました。
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