
にこ蔵さん:
それからお年寄りと接していくうちに、
ある1人の方にこんなことを頼まれました。
「お地蔵さんをつくって欲しい」と。
ぜんきゅうさんは試行錯誤しながら
紙粘土でお地蔵さんを作って、これでいいのかなと思いながら
老人ホームに持って行きます。
とりあえず試作品だからと伝えたら
そのお地蔵さんのために、お年寄りの方々が前掛けを作ったり
お賽銭箱を置き、さらには、このお地蔵さんにはご利益があるのだと
みんなが手を合わせるようになりました。
そんな様子を見ているうちに
試作品ではなくて、もっとちゃんとしたものを作りたいと思い立って
内海の砂を拾ってきて「砂かけ地蔵」として仕上げました。
この経験を経てから
ぜんきゅうさんはお地蔵さんを描くことを練習するようになりました。
1週間くらいお寺に通っては、繰り返しお地蔵さんを描きました。
そのうちにあるお年寄りに
「お地蔵さんを描いてみたい」と言われ、教えるようになります。
ただ
お年寄りなので、手が描くときに手が震えてしまうのですね。
ぜんきゅうさんは、出来るだけシンプルに線が1本ですむように、
描き方を研究します。
そうして生まれたのが、ぜんきゅうさんの作品です。
ぜんきゅうさんが言うには
「人生は何があるかわからない。
どん底を歩いていたのだけど、今はこうやってアトリエも持たせてもらって
再婚もさせてもらって、本も出版することができて、
講演会まで任せてもらうことができた。
自分は難しいことはわからないし、
何かを悟ったなんていう気持ちになったこともない。
ただ、1つだけわかったことがあって
人間は横の線と縦の線というつながりの中にしかいられない。
横の線というのはバランスだ。
例えば若者が田舎ばかりに住んでいたら
気持ちがこじんまりしてしまって、息苦しくなってしまう。
そうなってしまったら都会にでかけて刺激を受けて、心のバランスを取る。
もし主婦の方が家庭のことばっかりで、息苦しくなってしまったら
ちょっと遊びに出かけて、気分転換する必要がある
そういうことを自分の弟の姿を見ていて気付かされたんだ。
弟は仕事の帰りがいつも遅くて、10〜11時くらいになってしまう。
だから、土曜日になると、必ず、子供と一緒に遊んで
日曜日には自分の時間をたっぷり作って休んでいるんだ。
そういう過ごし方を見て、こいつはこうやって心のバランスを
取っているのだってわかったんだよ。
俺はそれができなかった。
仕事一辺倒になってしまったから
遊ぶことや、休む事の大事さがわかってなかった」
一樹:
ぜんきゅうさん自身が生き方を見つめ直した、といったところでしょうか。
まっすぐ道を歩いていくのではなく、周囲との環境の中で
自分の人生を位置づけていくことを学んだのでしょうね。
にこ蔵さん:
そういう事だろうと思います。
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